キール誕生秘話「金塊の門番、玉座の門番」第三章

女王の欲を満たすことが、国民に課せられた義務にして、生きる価値でした。

逆らえば一つの命は一瞬で塵となり、女王自らの手で処分されるのです。

王国には女王の次に恐れられるものがいました。

「人攫い団」と呼ばれる女王直属の銃士隊です。

彼らは女王の命令に従い、国内外問わず美しい乙女とその土地の金銀財宝を根こそぎ奪い、女王の欲を満たすのです。

この冷酷非道な男共を総べる者は意外にも齢15歳にも満たない少年でした。

少年の名はトローン。

金色の美しい髪と、同じ色をした瞳が特徴的でした。

この美しくも残酷な少年を国民たちはこう言います。

「若き日の王様にそっくりだ」

物心ついたころから、少年は王宮内で召使として昼も夜も働いていました。

幼い両手は過労により皸がひどく、体は常に煤汚れていました。

彼の唯一の楽しみは、掃除をしているときに偶々拾った本を、月の明かりを頼りに読むことでした。

学のない少年は、周りの大人たちに文字の意味を問い、懸命に本を読み進めていきました。

少年は学ぶことへの楽しさを知り、そして己の置かれている状況、そしてこの国の惨状を知りました。

こんな狂った世界、あってはならない。

少年は決意します。

この王国を変えてやる、と。

幼い少年でもわかります。

女王をやっつけろ。

ならば、と少年は考えます。

そこで思いだしたのは何度も何度も繰り返し読んだあの本のことでした。

敵を倒すには、まず敵を知れ。

少年は思います。

女王の右腕になれば、女王の寝首をかくことが出来る。と。

その日から少年の日々は少しずつではあるが変化が訪れます。

子供の稚さを存分に生かしながら、周りの大人たちに取り入り、その一方で本や大人たちから身に着けた膨大な知識をもって周りの大人たちを圧倒しました。

驚くことに、少年が提示した戦略を試しに取ってみたところ、戦に見事勝利したのです。

このことが女王の耳に入り、召使の少年は女王直属の銃士隊へ入隊することが出来たのです。

女王は少年に言います。

「これからは私の銃となり、馬となり、そして盾となりなさい」

少年は跪き、女王に忠誠を誓う格好でこう思います。

私は貴方を殺す銃となり、国を平和へと導く馬となり、そして国民を守る盾となります。

それから少年は女王に命を捧げる銃士隊として、血と硝煙にまみれ、女王の欲を満たすために略奪と殺戮を繰り返すのでした。

少年が銃士隊に配属されて幾年が過ぎたころ、彼は史上最年少の銃士隊隊長として狂犬どもを総べるのでした。

少年率いる銃士隊はその日も女王の命により『遠征』へむかいます。

この国の地下街には大層美しい布を作る職人がいるそうだから、彼らに私のドレスを作らせなさい。女王の仰せのまま、銃士隊は地下街へ赴きます。

しかし、地下街の入り口は不明。

それもそのはずです。地下街の入り口は常に変化します。

理由も、出入り口がどこにつながっているかも、地下街住民すらわかりません。

銃士隊はしらみつぶしに地面を隈なく探します。

早く、早く見つけなければ。

女王様の望みをすべてかなえて差し上げることが国民の義務にして生きることを許された理由なのだから。

トローンも他の銃士同様地下街の入り口を必死で探します。

それは女王のためではなく、ある目的のためでした。

トローンが銃士隊隊長に任命されたその日、とある噂を耳にしたのです。

地下街に、奇跡の双子の片割れがいる。と。

女王の強く圧政がここまでひどくなったきっかけは本で読んだことがあります。

国王と双子の母親が女王の手により粛清された日、希望の双子の行方がわからなくなったとされています。

文献にはこう記されています。

双子の兄は、黒くやわらかな髪に金色の双眸、ふくよかな頬を持つ珠のような男の子。

双子の弟は、金糸の猫っ毛に透き通るほどの白い肌、同じくふくよかな頬を持つ珠のような男の子。

トローンが銃士隊に入隊した理由は、女王の制裁するための銃になるほかに、希望の双子を探し出すことでした。

「ここも違うか」

トローンは腰を上げ、場所を変えます。

凝り固まった筋肉を解そうと体をひねった。視線の先にいたのです。

文献そのままの少年が。

深々とキャスケットを被った少年の髪は黒々として美しい。

切れ長の双眸は金色の輝きを放ち、肌は抜けるほど白く、幼少期に日の光を浴びていなかったため、その体は華奢で小柄でした。

トローンは少年のもとへ駆け寄ると、細腕を強引につかみ、近くの細い路地へ引きずりました。

抵抗する少年を壁に抑えつけ、キャスケットを奪い去ります。

無理矢理にさらされた相貌は、文献に描かれていた国王そのもの。

不思議とトローン自身にも似ています。

黒髪の少年もまた、トローンの顔を見るなり、驚愕の表情を浮かべていました。

色違いの自分が、自分を取り押さえているのですから、仕方がありません。

先に動いたのは黒髪の少年でした。

「あんたはもしや、あの双子の片割れか?」

少年は直感でそういいました。

自分を育ててくれた老婆の家に飾ってあった国王の肖像画と、目の前の少年があまりにも似ていたから、つい口に出てしまったのでしょう。

思えば、少年の子の言葉が運命の歯車を大きく動かしたのではないかと思います。

少年はトローンの言葉を待つことなく、腕を引くと強引に路地裏の奥へ進んでいきます。

突き当りには古びた木の扉があり、少年は迷うことなく扉を開け、トローンもろとも中へ入ります。

長い長い階段を下り、更に暗い暗い廊下を歩き、たどり着いた先は、地下街とは思えぬほど活気に満ちた世界でした。

本当にここがあの王国なのか?

トローンは呆然とその光景を眺めていました。

少年は皆を広間に集めると、声高に話しだします。

「ここにいらっしゃるのは、国王のご子息、そう、希望の双子の片割れだ!彼は我々革命軍の希望にして、切り札。皆の衆よ、彼を歓迎しよう!」

地下街の民衆の歓喜の声がワンワンと反響し、大喝采を産みます。

まだ幼さの残る少年の持つカリスマ性がこれだけの人々を引き寄せ、先導するのか。

きっと黒い少年は直感でトローンを奇跡の双子の片割れだといって見せた。

ならば、とトローンもまた少年に倣う。

「皆様静粛に!私も皆様にお話したいことがございます。皆様を革命と産業へ先導してくださった彼もまた、希望の双子の片割れ。奇遇にもここで王国に革命を起こす希望の双子が揃ったわけだ!私達二人の王子は誓う、神聖たる王族の血のもとに。極悪非道の女王の手から嘗ての平和で恒久的な幸せに満ちた王国を取り戻さんことを!故に、皆様のお力添えがほしい!共に王国に平和と幸せを取り戻しましょう!」

金色の王子の言葉に地下の民衆は歓喜に沸き、今一度革命への意志を高めたのです。

こうして、黒色の王子は城の外から、金色の王子は城の中から、女王を粛清し国を取り戻す計画を立てたのです。

時は一月後の七ノ刻。

語り草にすぎなかった希望の双子の再会により亡国の一途をたどるはずの王国に奇跡が起こり始めるのです。

この伝承に関連する魔道具: 金塊の番人・玉座の番人