ストーンハウス伝承神話「聖光の祝福・闇煌の祝福」

キールゆかりの地に伝わる伝承に、神の寄り代年て、美しい少女を神に捧げる風習がありました。
神の寄り代を務めた女は皆、諸人の望む全ての幸せを手にする、と言い伝えられています。
嘗て、神の依代として生きた女のもとに生を受けた少女がいました。
明るく活発で、優しくて聡明。しかし、彼女は一つだけ難をもっていました。
少女は誰もが目を覆いたくなるほどの醜女だったのです。
しかし、両親は「健康であればそれでいい」と少女を大切に育てました。

少女が15歳を迎えた時のことです。
神妙な面持ちの少女が母に言いました。

「私、神様の体になりたいの」

それは、今までわがまま一ついうことのなかった少女が初めていったわがままでした。
母が口を開く前に、少女は自らの手でそのわがままを打ち消します。
その顔は悲壮で満ちていました。
娘の表情に母の心は引き裂かれそうでした。

神の寄り代になって以来、母の人生は幸せそのものでした。
貧しかった実家は、今では国一番の大富豪。
嫁ぎ先は名門貴族の家庭で、義理の家族からは宝物のように大切に扱われている。
欲しいものは何でも手にしてきました。
絢爛豪華な宝飾品に、世界中のありとあらゆる馳走。美しい殿方からの寵愛。
そして裕福で幸せな家庭に、優しい夫と世界で一番愛しい娘。
全ての苦悩を捨て去り、幸福の身に満たされた人生を手にしたはずの彼女。
そんな彼女の一番の宝物が今心を痛めているのです。
母を悲しませんと浮かべている笑顔も痛々しくて仕方がありません。

母は願いました。
どうか私に与えられた加護を娘に分け与えてください。と。

母の願いはすぐに叶いました。
ある日、少女の夢の中に二人の女神が表れました。

一人は聖なる光を湛えた美しい女神。
光の女神の浮かべる微笑に少女はうっとりと見惚れていました。

もう一人は禍々しくも人の心をとらえて離さない闇を従えた美しい邪神。
闇の女神の浮かべる妖艶な笑みに少女は目が離せないでいました。

光の女神は、少女の右手を取ると、ふっくらとした手の甲に唇を落とします。
「これからの貴方に聖なる光の加護を」
女神の唇が離れてすぐ、今度は闇の女神が左手を取り、光の女神と同様、手の甲に唇を落とします。
「これからの貴方に偉大な闇の力を」
闇の女神が怪しく少女へ笑んでみせます。
そこで少女の夢は終わります。
この不思議な夢がのちに少女の運命を大きく動かします。

神の寄り代が変わる日。
その儀式に少女も参列することになりました。
今度の寄り代は人形のように美しい少女です。
真っ白なドレスを見位に纏った美少女はまるで天使のようでした。
儀式は滞りなく進み、いよいよ、神を体に宿す時、事は起こります。

神は寄り代となる美しい少女の体ではなく、参列していた醜い少女の体に宿ったのです。
光の神と闇の神の双方を宿した少女に、寄り代となるはずだった美少女は叫びます。
「なんであんたなのよ!」
美少女が口汚く喚くだけ、神の体となった少女の前でどす黒い玉の大きさが増していきます。
「もう気が済みましたか?」
少女はそれだけ言うと、黒い玉を美少女へ投げやります。
黒い玉は靄となり美少女を包み込みます。
靄が消え去った後に残されたのは、醜い豚とシルクのドレスだけでした。

少女が神の寄り代になってから、平凡な日々に大きな変化が訪れました。
嘗て少女を悩ませていた数々の負の要素がするりと消えてしまったのです。
その代わり、陰で少女を馬鹿にしてきた者共に、災いとして鞭打たれたのでした。

丁度同じころです。
少女のもとにたくさんの縁段が寄せられてきました。

街一番の腕利きの医者。
領主の息子。
南の国の富を全て手にした大豪商。
果ては東の国の半分を支配した王からも愛の言葉をもらい、愛の施しを受けました。

神の寄り代を譲った後も、それはひっきりなしに続き、頂いた金銀財宝を現在の価値に換算すれば国一つ建国できるほどの価値だったとされています。

少女から大人になった彼女が望んだものは、過去に一度だけ遠くから見た隣国の王子様でした。 
幼い彼女は一目で王子に恋をしてしまったのです。
しかし、王子には許嫁がすでにおり、婚儀を済ませたと風の噂で耳にしたのは随分昔の話でした。
ところがある日、王の使いとして彼女のもとへ訪れたものから信じがたいことを聞かされたのです。
「王がぜひ、貴方を妻にと」
先代の王がなくなり、彼女の初恋の相手である王子が次の王として即位したのですが、妻となった女が稀代の毒婦だったようで、女王という立場にありながら己の欲を満たすことだけに精力を注ぎ、あろうことか囲いの間男の子供を身籠ってしまったのです。
そんなふしだらな女に王もさすがに愛想をつかし、遂に不貞を理由に処刑したといいます。

元女王が毒婦の本性を表したのはちょうど彼女が神の寄り代として生きるようになってからでした。
嘗ての女王の亡き後、後妻として王が望んだのが神の寄り代として生きた彼女だったのです。

彼女は晴れて隣国の女王として即位。
富も権力も愛も手にした彼女は、それに驕ることはありませんでした。
そんな彼女は国民すべてから愛されていました。
やがて彼女は愛する王とたくさんの子供をもうけ、愛と幸せに満ちた日々をいつまでも過ごしたとされています。

この伝承に関連する魔道具: 聖光の祝福・闇煌の祝福