キール誕生秘話「金塊の門番、玉座の門番」第二章

饐えた臭いと人の背負う七つの大罪が満ちる地下街に、一人の少年が生きるために生きていました。
少年の名はガルヴァレン。黒く美しい髪に抜けるほど白い肌、そして強い意志を持つ金色の瞳が特徴的でした。
物心ついたときから少年は一人でこの地下街にいました。
少年は言います。いつか太陽の光を浴びてみたい、と。
大人たちは言います。そんなの無理だ、地上のすべてが女王陛下のものだ、太陽の光すらも、と。
ならば、少年は思いました。
女王から地上のすべてを奪えばいい。
では、少年は考えます。
まずは女王と戦わなくてはならないから兵隊がいる。
兵隊を総べるには自分が地下街の支配者にならなくてはならない。
人を支配するには何が必要か。
強さと権力と金だ。
しかし、少年には学はありません。
彼がのし上がるには金と権力にものを言わせるしかありませんでした。
ガルヴァレンが初めて自力で金を手にしたのは10歳のころでした。
職のない地下街で唯一盗み以外の方法で金を得る場所は賭博場しかありません。
大人の胸ほども背丈のない少年にはあまりに場違いでしたが、ガルヴァレンは怯むことなく、手持ちの半分のお金を出し、賭け事に参戦しました。
大人たちはそんなガルヴァレンを小ばかにしました。
しかし、結果はガルヴァレンの圧勝でした。
次の日も、また次の日も、ガルヴァレンは賭けに勝ち続け、いつしか彼に勝てるものはいなくなりました。
ガルヴァレンは決してズルはしません。
彼はいつでも正攻法で勝ち続けました。
こうして彼は薄汚い地下街で一番の大金持ちとなりました。
弱い僅か13歳です。
13歳の彼が次に欲したのは権力でした。
幼い彼の持つ金を欲して従うものはいても、「彼」に従うものはいませんでした。
そこでまた少年は考えます。
ならば自分が金を生み出し、皆に配ればいい。
では何を生み出す?少年は考えあぐねた末、ある思い出にたどり着きます。
少年を8つまで育ててくれた老婆のことです。
老婆は「地上に売りに行くのよ」といい糸をつむいでいました。
その糸はとても丈夫で、それで綻びを直して貰えば二度と破れることはないと評判でした。
ガルヴァレンは早速糸の作り方を調べるために自宅の倉庫を探しました。
古びた本には魔法の糸の作り方と、その糸を使った布の作り方が掲載されており、早速彼は地上へ材料の買い出しに向かったのです。
ここで彼は現実を目の当たりにします。
夢にまで見ていた地上は飢えと渇きに支配され、無気力な人間たちで溢れかえっていました。
中には死骸も混ざっています。
ガルヴァレンと同じ年頃の少女が幌に乗せられ運ばれています。
恐らく人買いに捕まったのでしょう。
地下街以上に凄惨な状況に、少年は生まれて初めて恐怖を感じました。
足がすくみ、喉は渇き、体が震えます。
動けないでいるガルヴァレンをよそに、みずぼらしい外観の男が恐怖に満ちた形相で走りながら叫びます。
「女王が来た!女王が人さらいに来たぞ!」
ガルヴァレンはいうことを聞かない脚に鞭を打ちながら漸く物陰に隠れました。
先ほど警告しに来た男は女王の護衛隊らしき兵隊に撃ち殺されます。
豪奢な馬車に乗った下品なほどに派手な女(恐らくこいつが女王)が言い放ちます。
「若い女を捕まえろ!若くてきれいな女だ!早く!!」
護衛隊は一斉に家々を荒してまわります。
悲痛な叫びとともに若い女性が引きずり出され、家の中では銃声が聞こえます。
ガルヴァレンは思いました。
この国は想像以上に最悪な状況にある。
少年は走ります。
饐えた臭いのする楽園へ。
足がもつれて幾度転んでも。
心臓が口から飛び出しそうになっても。
少年はひたすら走り続けました。
少年の心は今絶望に塗りつぶされています。
しかし、少年は思います。
もし、俺がもっと強ければあの少女を、女王のために売られていく少女を救えただろうに、と。
地下街へ戻り、少年は再び考えます。
どうしたら現状を打破できるかと。
結論はやはり少年の初志どおりでした。
長いスパンにはなるが、平和的解決方法はこれしかない。
今の王国の行く末は破滅しかない。
しかし、これから少年の始めることは文字通り生み出すことだ。
ならば恐怖など覚える暇はない。
立ちあがらねばならない。
革命のために今は皆の士気を高め、団結しなくては。
少年はその小さな足でいま革命の一歩を踏み出しました。
幸い、ガルヴァレンには商才がありました。
賭け事で培ってきた話術を巧みに使い、安くて質の良い綿花と糸紡ぎと機織り機を大量に仕入れ、地下街の女性を集めると、布を作らせました。
男たちにはその布を地上で売るよう指示をしました。
国内で売るにはリスクが高いので、こっそりと国外で売ります。
ガルヴァレンたちの作る布地は質が良く、夏は涼しく、冬は温かいと評判を集め、近隣の国では誰も知らぬ者はいないまでに成長したのです。
月日は流れ、とある男がこんな疑問を投げかけました。
「何故国内で売らないのか?」
「見ればわかるさ」
ガルヴァレンは男衆数人を連れ、地上へ上がりました。
そこにはかつてのガルヴァレンと同じ反応をする男衆がいました。
「解っただろう?俺はこの現状を変えたいから今の工場を作った。金があれば、学があれば、権力があれば、この現状を理解できる。何をすべきか理解できる。そして、すべきことを実行できる」
「俺たちに、この国を変える革命をしろと」
「お前はどう思った?」
ガルヴァレンは答えを待たず言葉を続けます。
「この国を変えない限り俺たちは自由になれない。地下に巣食うには俺たちは大きくなりすぎた。俺は俺の未来のためにこの国を変える」
ガルヴァレンは地下街へ戻ります。
それに続く男衆のなかにも、革命について深く考えるものが出てきました。
このことを機に地下街では革命思考が広まります。
どんな思考であれ、目的は同じとガルヴァレンは全てを受け入れ、革命の日に向けて着々と準備を始めました。

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