ストーンハウス伝承神話「乙女の祈りと殉血」

ストーンハウス設立後、王国は悠久の平和を過ごしていました。
貧困と空腹に喘ぐ民も、悲しき運命に翻弄される娼婦も、嫉妬と邪心にもがき苦しむ商人も、親を亡くし、どうしようもない孤独にむせび泣く子供たちも、この国にはいませんでした。
それは全て、陰でストーンハウスに集う聡明なキールの遺志を継ぐ魔術師の手で国をあらゆる不幸から加護していたからです。
穏やかな平和は永遠に続く、人々はそう信じて疑いませんでした。
ところが、国民の尊敬は羨望は国王ではなく、ストーンハウスに集う魔術師たちに向けられている事実に、国王をはじめとする王族一同は、彼らに嫉妬するようになりました。
当時、王国の外では魔女狩りが横行しており、何人もの人々が残酷な拷問にかけられ、その尊い命を散らしていったのです。
嫉妬に駆られた国王は、他国に倣って魔女狩りを始めたのです。
手始めに、国王は娼館に住まう娼婦を一人残らず火あぶりの刑に処しました。
娼婦の火刑を皮切りに、王族の者は己に歯向かうもの、目についた人々を片っ端から「魔女」と称しありとあらゆる拷問にかけていきました。
その魔の手はついにストーンハウスにまで及ぶようになりました。
王族と魔術師たちとの戦いは凄惨なものでした。
再び血にまみれた過ちを繰り返そうとする国を憂い、立ちあがったのは、美しい乙女たちでした。
彼女らは一堂に会すと、路地裏を抜け、処刑後の遺体を遺棄した野原を過ぎり、ストーンハウスへたどり着いたのです。
そこで彼女らが見たのは、嫉妬に狂った国王に仕える哀れな軍隊と、懸命に悪と戦う魔術師たちの姿でした。
乙女たちはストーンハウスの地下へ潜り込むと、鈴音のような声で謳い、そして踊りました。
この国に伝わる守りと平和の呪文と、祈り舞いです。
呪文は唱えだしたら最後、その命尽きるまでやめることは許されません。
乙女たちの命を懸けた祈りはストーンハウスを超え、森の中まで響き渡りました。
彼女らの声を最初に耳にしたのは、魔女狩りの魔の手から逃れ、旅をする他国の魔術師でした。
ストーンハウスにまで魔女狩りの対象になっていたのか、魔術師のジプシーは皆、嘆き悲しみました。
この世界はお終いだと、悲観に暮れてている彼らを見て、腰を上げたものがいました。
ジプシーを率いる魔術師で、名はガーネットといいます。
ガーネットは頭を垂れている彼らにいいました。
「嘆く暇があるなら、ストーンハウスへ向かうのです。彼らは、我々魔術師にとっても、そして全ての人々にとっても残された最後の希望なのです」
ガーネットを先頭に、彼女を慕う見習いの少女たちはストーンハウスへ向かいます。
彼女らがストーンハウスへたどり着いたころには森は漆黒の闇に包まれ、そして、兵士・魔術師問わずたくさんの遺体が其処らじゅうに横たわっていました。
どれだけ熾烈な戦いが繰り広げられていたか、手に取るようにわかります。
ガーネットと少女らはストーンハウスを囲むと、呪文を唱えました。
それは、魔術師の間で門外不出の終わりと再生の呪文です。
長い長い呪文を終えると、彼女らは自らの首筋に短刀を宛がうと、その純血で地面を赤く染めました。
乙女たちの祈りと殉血は奇跡を呼びました。
彼女らの亡骸から薔薇の木が生えてきたのです。
根はストーンハウス周辺を囲むように伸び、まるで外から加護するかのごとく包み込みました。
奇跡は王族の嫉妬におびえる人々にも訪れました。
王都に住む一人の青年が、王政に対して異議を唱えました。
青年の声は人々を奮い立たせ、やがて王国で革命が起こりました。
革命はすべての国民を一つにし、数日たたないうちに国王は玉座から引きずりおろされ、王族全員あらゆる屈辱と拷問を受けた末、国民の前で処刑されました。
革命を始めた青年が新たな国の指導者となり、国は再び悠久の平和を取り戻しました。
その革命と平和の礎には純潔たる数多くの乙女の尊い命と鮮血があることを忘れないために、我々ストーンハウス協会に所属する魔術師はこの日を乙女の日と称し、幾世紀も経った今でも彼女らに黙祷を捧げるのです。
私はまだ拝見したことはないのですが、ストーンハウスを囲む薔薇の生垣は満月になると、青々とした葉が一瞬白く染まり、新月になると、薔薇だけが闇に浮かび、葉は漆黒に解けるそうです。

この伝承に関連する魔道具: 処女の殉血
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